H-IIBロケット7号機/こうのとり7号機 機体移動と打ち上げの報道公開レポート

1.はじめに

2018年9月11日(以下日時はすべて日本時間)に打ち上げを予定していたH-IIBロケット7号機は、天候不良のために打ち上げを延期していました。13日に打ち上げ日時が9月15日午前5時59分14秒(以下日時はすべて日本時間)に再設定され、この日程に合わせて打ち上げシークエンスが開始されています。

H-IIBロケット7号機は、宇宙ステーション補給機「こうのとり7号機」(HTV 7号機)を搭載し、JAXA種子島宇宙センターから打ち上げられる予定でした。

今回打ち上げられる機体については、

・【レポート】H-IIBロケット7号機コア機体公開(2018年7月24日)

にて報道公開時の様子を掲載しています。

打ち上げ延期の経緯、並びに「こうのとり7号機」の概要については

・H-IIB 7号機/こうのとり7号機打ち上げ 現地レポート(9月13日)

を御覧ください。

2.機体移動レポート

H-IIBロケット7号機の機体移動は、14日14時から開始されました。H-IIBロケット7号機は、移動発射台(ドーリー)に載せられて、大型ロケット組み立て棟(VAB)から第2射点(LP-2)まで移動します。道のりは約400m、30分強をかけて発射点まで移動します。

報道機関には、VABから約350m、第2射点から約400m離れた、小高い丘の上からの撮影が許可されました。天候はくもり、雲の隙間から青空を望むことができました。風もおだやかです。

14時前、黄色の回転灯や人が忙しく移動する様子から、おそらく14時ちょうどから機体移動が開始することが察せられました。サイレンの鳴動は、報道の見学場所からは聞こえませんでした。

14時1分、ドーリーの灰色の鉄塔がVABから出現しました。やがてVABの大扉をかすめるようにH-IIBロケットも姿を現します。ロケットの全長は56m。腕を水平に伸ばし、人差し指を垂直に立てたくらいの大きさです。ドーリーは途中で道を曲がり、ゆっくりと第2射点に移動します。

▲VABから現れたH-IIB 7号機。左側の大きな四角い建物がVAB。補修工事が行われている。
▲H-IIBロケット 全景
▲H-IIB下部と台車。作業員の姿も写る。目を凝らせば、H-IIBのメインエンジンLE-7Aのノズルスカートも観察できる。
▲射点に到着したH-IIBロケット
▲H-IIBロケットの上部。段間部にはミッションパッチが貼られている。

3.打ち上げ中止までのレポート

14日9時の第1回Go/NoGo判断会議(機体移動作業開始の可否判断会議)、20時の第2回Go/NoGo判断会議(ターミナルカウントダウン作業開始の可否判断会議)はどちらもGo、作業可と判断されました。14時の機体移動の後、推薬(液体酸素・液体水素)の充填、各種設定・点検などの準備が行われます。

取材班は午前2時頃に竹崎の報道控室に入り、情報を待ちつつ待機しました。前日夜22時ごろ、強い通り雨が降りましたが、打ち上げ準備作業に影響はありませんでした。雲も日中より減り、午前3時ごろで雲量は5程度でした。

報道控室には入室以降、午前4時まで特に情報も入らず、穏やかな雰囲気で打ち上げの瞬間を待ちます。

▲午前3時50分ごろの射点の様子

午前4時10分ごろ。報道控室に突如人だかりができます。我々は完全に面食らいました。漏れ聞こえたところによると、打ち上げは延期になった、とのこと。要因は「推進系統に確認を要する事象が発生したため」としか伝えられませんでした。この時点で今日の打ち上げは中止となりました。

午前6時から、打ち上げは中止に係る説明記者会見が催され、打ち上げ延期となった要因の説明がなされました。

問題が起きたのは、ロケットの第2段液体酸素タンクの「ベントリリーフバルブ」という安全弁です。この弁は、第2段液体酸素タンクに圧力が加わりすぎないよう、適宜圧を逃がす役目があります。

15日午前2時ごろ、燃料充填後に行われたバルブ動作試験において、バルブが規定よりも低い圧力で動作するという異常が確認されました。ベントリリーフバルブの規定圧力は0.33MPaA(メガ・パスカル)、試験時の圧力は0.25MPaA。ベントリリーフバルブの動作圧力が規定より低いと、エンジンに送り込める燃料・酸化剤の量が減少し、エンジンが正常に稼働しません。これにより正常な飛行が見込めないため、15日の打ち上げは中止となりました。

▲午前6時に行われた会見。左が三菱重工・打上執行責任者の二村氏、右がJAXA・打上安全管理責任者の藤田氏。緊張した雰囲気の中で会見は行われました。
▲配布された資料

なお、H-IIBロケット7号機は問題の洗い出し、再点検の上、再び打ち上げられる予定です。三菱重工・二村氏は、「このような事象は初めてであり、一週間以内の再打ち上げは厳しい。期日通りに打ち上げが行えなかったことは少し残念だ。しかし、最悪の事態を回避し、手前のチェックで事故を未然に防ぐことができたことは評価したい」との見解を示しました。

また「こうのとり7号機」はミッションが延期されても、ミッションの実施や国際宇宙ステーションの機能等には問題ないとのことです。

▲午前6時ごろ、打ち上げ時刻のH-IIBロケット。雲はすっかり消え去り、気持ちのいい朝焼けが広がっていた。

4.その後

ベントリリーフバルブは機体から取り外して三菱重工飛島工場に送られ、調査を受けた。その結果、内部の部品に0.1mm程度のゆがみが生じていたことが判明した。

現在の所、新たな打ち上げ日時は9月23日(日)午前2時52分27秒となっているが、天気予報は芳しくない。続報に注目していきたい。なお、東京とびもの学会では打ち上げ時の現地取材はスケジュールの都合で断念した。

種子島宇宙センター 気象情報(JAXA)

(記事:村上貴広)