SRB-3(認定型)地上燃焼試験取材

 2020年2月29日午前11時、鹿児島県熊毛郡南種子町の種子島宇宙センターにおいて、新型固体燃料ブースタSRB-3(認定型)の第2回地上燃焼試験が行われた。
 当日の天候は曇り一時雨、微風で、気温は19.1℃だった。

 以下、プレスリリースに基づいて結果を記す。

試験結果(参考値)
燃焼時間 :107.5秒(予測値108.6秒)
最大推力 :2073kN(予測値2145kN)
最大燃焼圧力:11.0MPa(予測値10.9MPa)

 予測値とのズレは想定内で、良好な試験であったとのことだった。

1: 試験の意義

 今回の試験の主目的は、SRB-3とイプシロンロケット新型第一段の「シナジー対応開発」の結果を確認することにあった。「少なくとも5号機には適用」とされているイプシロンの新型第一段とH3のブースタであるSRB-3は、基本的な構造を共有し、必要な箇所をそれぞれに合わせて変更することになっている。
 両者の最大の違いは、飛行方向制御のためにノズルの首振り(ジンバリング)を行うかどうかだ。
 H3は、メインエンジンのLE-9が制御を担うため、SRB-3はジンバリングしない。イプシロンはジンバリングの必要がある。
 種子島では、これまで2回のSRB-3燃焼試験を行った。最初は実機型を用いて基本設計を確認し、続いて認定型を用いてH3用(ジンバリングしないモデル)の試験を行った。
 3回目になる今回は、認定型を用いてイプシロン用(ジンバリングするモデル)の試験を行う。
 実機型と認定型というのは紛らわしい名称だが、実機型=最初の試験のために実物大に作った供試体、認定型=型式認定に用いる供試体となる。開発順序としては実機型→認定型である。H3用認定型の試験は済んでおり、今回のイプシロン用認定型がうまくいけば、これが最後の試験となる。

 以下にジンバリングシステムの写真を載せる(記者会見配付資料より)。H3モデルと異なるのは、駆動用電池・2本の電動アクチュエータ、鉄板とゴムケイ素材の積層からなるフレキシブルジョイントが搭載されていることだ。

 固定大への設置時に、アクチュエータは垂直に対し45°配置になるように置かれ、一度の試験で2本とも確認できるようになっている。 今回は左右のみ、最大5.5°の首振りを行った。

2: 試験概要

 試験は、種子島宇宙センター内の竹崎射場付近に設けられた竹崎固体ロケット試験場で行った。警戒区域は約900m。
 試験場はコの字型の防爆壁(土手)に囲まれ、一方が海に向かって開く。しかし海まで素通しではなく、炎を上方に跳ね上げるデフレクタというコンクリート構造物が設置されている。
 ブースタは横置きで、二箇所を 門型の治具で固定されている。さらに 上部を推力計測器を兼ねた治具で大きなコンクリートブロックに接続し、強大な出力を地上に押さえつけている。機体各部に設置された様々なセンサによって推力・燃焼圧力・各部温度・歪・加速度など約320点の計測を行う。
 試験では約66.9tの推進薬を107.5秒で燃やしたので、1秒当たりだと約662kg、およそ軽自動車1台分の火薬を消費した計算だ。
 そのまま宇宙に飛び立つ能力のあるブースタが、がっちり固定され地上で燃える様はとても迫力がある。

3: 試験の様子

 東京とびもの学会は、今回2名を取材に送り込んだため、大崎海岸と竹崎観望台の2箇所で動画・スチルの撮影を行うことができた。竹崎での撮影に当たっては、事前にJAXAの許可を得ている。
 霧雨が降りもやがかかるという、撮影には厳しい環境での試験であった。

最初に動画を掲載する。

以下、スチル写真

大崎海岸では、報道と一般が入り交じっていた。

4: 詳しい試験内容、その他

 SRB-3の燃焼試験は
 ジンバリングで重要なのは、設計通りの挙動が出来るかどうかだ。重要な要素は、

・舵角制御(指定した角度に正確に首を振れるか)
・追従性(首を振るように指示してから、実際にその角度に達するまでの時間)
・周波数特性(振動など)

である。詳しい項目は、前掲資料を確認してほしい。速報ではあるが、これらも良好であったとのこと。
 イプシロン用とH3用で推力パターンは同一であり、これは推薬の形状が同じ、すなわち製造時の治具がひとつで済むことを意味する。更に、H3もイプシロンも性能上の妥協をしているわけではなく、ともに性能向上を目指した結果だという。
 1回の打上げで2~4基のSRB-3を使うこともあり (型式によって異なる) 、年に数機程度上がるH3と、1回に1基で打上げペースは年に1回程度のイプシロンの1段目を統合できれば、量産効果で価格低減に役立つ。
 設計当初からプロマネレベルでの共同開発を行ったことが功を奏したといえる。H3の岡田プロマネとイプシロンの井元プロマネは入社同期で、現在机もすぐ近くにあり、何かあればすぐに打ち合わせや相談が行える環境だとのこと。
 このことを岡田プロマネは「「同期の桜」がやっと一緒に仕事ができるようになった」と表現していた。

安堵したのか、試験場を背景に笑顔を見せる岡田氏(左)、井元氏(右)
燃焼試験終了後の供試体。イプシロンとH3のマークがともに描かれている。
ノズル側から。クエンチのアームが出ている。ビニールチューブは送風用。先端にサーキュレータが取り付けられており、燃焼室内の温度を下げるため外気を送り込んでいる。
クエンチ(消火装置)。先端から炭酸ガスが出る。
試験場全景
デフレクタ。白い部分はアルミナ粉末、赤みがかっているのはコンクリートが熱に炙られたためだという。
試験場。供試体を囲む「コの字型」防爆壁がよくわかる。

 H3開発は、岡田プロマネの言を借りれば「八合目を越えている」状態だ。SRB-3の開発が終わると、次に待つのはLE-9の型式認定とSRB分離試験。それが終われば、総仕上げである地上総合試験(CFT)に進む。
 20年ぶりの新型ロケットが大空に飛び立つ日が、今から待ち遠しい。

(記事:金木利憲、竹崎側写真・動画:樋口厚志)