2024年11月27日、三菱電機鎌倉製作所において、「みちびき」6号機(QZS-6)の報道公開が行われました。
「みちびき」シリーズは、内閣府所管の測位システム「準天頂衛星システム」(QZSS)を担う衛星です。GPSに代表される地球全体をカバーする測位システム(GNSS)を補完し、精度を上げることが目的であり、日本とアジア、オセアニア地域までをカバーしています。今回公開された6号機は、H3ロケット5号機にて2025年2月1日17時30分~19時30分(予備期間2月2日~3月31日)の打ち上げを予定しており、設計寿命は15年とのことです。
これまでの概要
QZSSは当初、GNSSを、日本とアジア、オセアニア地域に限定して補完するシステム(地域衛星測位システム:RNSS)として始まりました。GNSSとして最も有名なのはアメリカのGPSですが、他にロシアのGLONASS(グロナス)、ヨーロッパのGalileo(ガリレオ)、中国の北斗(北斗/ベイドゥ)が運用中です。また、RNSSは日本のQZSSのほか、インドのNavIC(ナビック)が運用中です。その他、韓国など、将来的な保有に向けて動いている国もあります。
2010年9月に「みちびき」初号機(QZS-1)を打ち上げて実証を行い、その結果を受けて2017年6月~10月に2号機から4号機(QZS2~4)までが打ち上げられ、正式サービスを開始しました。初号機が寿命になったことに伴い2021年10月に初号機後継機(QZS-1R)を打ち上げて交代し、4機体制を維持しています。
今回の計画の狙い
6号機打ち上げから始まる第二期では、4機から7機へ、体制を強化することになっています。その目的は準天頂衛星システムが、GPSなど他のシステムに頼らず測位可能になるための最低限の機数を実現することにあります。
打ち上げられるのは5号機(準天頂軌道)6号機(静止軌道)7号機(準静止軌道)の3機ですが、このうち最初に飛ぶのは6号機です。打ち上げ順と号機順が入れ替わったのは、静止軌道行きを優先した結果とのことです。
個人的に興味深かったのは、6号機が静止軌道、7号機が準静止軌道を選択したことです。これについて、なぜ準静止軌道が選ばれたのか担当者に質問したところ、
・静止軌道に比べ軌道制御回数が少なくて済むため、燃料消費が少ない(月1回以上→半年に1回)
・静止軌道のスロットを気にしなくて良い
・軌道が僅かにずれることは、測位のためにはプラスに働く
という理由だったとのこと。
衛星による測位を実現するためには最低4機の衛星が常時見えている必要がありますが、QZSSは現在4機体制のため、軌道の関係で常に見えるのは2機のみで、あくまでGNSSの補完に留まるものでした。7機体制が実現すると、常時見えている機数は4機ないし5機となるため、地域限定ではあるものの単独での測位ができるようになります。2024年度に6号機を、25年度に5、7号機を打ち上げ、2026年度に7機での正式サービスを開始する予定です。ここまでが第二期の計画となります。
現在は、第三期に向けた計画が始まっています。内容としては、2030年代後半までにバックアップ衛星を用意し全11機体制を構築する計画となっています。第二期で整備される7機体制というのは常時測位のための最低限の機数で、1機でも故障するとサービスが止まってしまいます。実際に2017年には「ガリレオ」が、衛星故障のため1週間ほど止まったことがありました。QZSSではこれを避けるため、11機体制への強化計画が策定され、2024年に決定した宇宙基本計画の改定に盛り込まれました。
体制強化は安全保障上重要ですし、測位精度が上がることによって、物流や建設といった分野での自動化が進むことが期待されており、産業界から実現に向けた強い要望が上がってきているとのことでした。
機体構成と新要素
これまでの「みちびき」シリーズ同様、三菱電機のDS2000バスを用いており、バス部の大きさが2.3m×2.3m×3.8m、太陽電池展開後の差し渡しは19mとなります。重量は打ち上げ時約4.9t、乾燥重量では約1.8tです。本体の断熱材はブラックカプトンを用いているため、黒色です。シリーズを通して全てのミッション機器を地球指向面(ロケット搭載時の上面)に集中搭載しているのが特徴です。太陽電池はパネル2枚×2翼を装備します。第二期ではセルがガリウム-ヒ素系(GaAs)のZTJから同じくGaAsの3G30C Advanceに変更され、性能が向上しています。
今回からの新要素として、衛星間測距システムと衛星/地上間測距システムの搭載が挙げられます。衛星間測距システムは「みちびき」各号機それぞれの距離を測り、衛星/地上間測距システムは地上の追跡管制局との距離誤差を打ち消すためのシステムです。どちらも衛星の軌道決定精度をこれまでよりも上げ、それによって利用者の位置情報をより正確に決定するためのツールです。具体的には、現状5~10mの精度のところ、1mになるとのことでした。
ただし、これまでの「みちびき」シリーズや基地局では対応していないため、今後の衛星打上げや地上局の整備が進んでから真価を発揮することになります。なお、現在の「みちびき」シリーズと地上局の通信は1分に1回のところ、衛星/地上間測距システム導入によって1秒に1回となります。現在でも地上局は衛星1機につき1局+予備局が1局用意されていますが、衛星/地上間測距システムのために新設や既存局の改修が行われることになります。
測位信号について
「みちびき」6号機では、測位補完信号としてL1-C/A、L1-C/B、L1C、L5が、測位補強信号としてL6が、技術実証としてL1Sb、LSSが搭載されます。このうちL1Sbは「ひまわり」6・7号(MTSAT-1R、2)から始まったSBAS配信サービスを受け継ぐ役割を持っています。(2024年12月現在は、「みちびき」3号機で発信中)
各号機ごとの信号の種類や周波数については、公式サイトを参照のこと。
https://qzss.go.jp/overview/services/sv03_signals.html
以下は資料写真です。ディティールがわかるような構図を選んでみました。
無事の打ち上げと今後の活躍を祈ります。