H-IIB 9号機打ち上げ見学に自粛要請

参考サイト
南種子町
http://www.town.minamitane.kagoshima.jp/sightseeing/rocketkengaku.html
JAXA
https://www.jaxa.jp/notice-c_j.html
三菱重工打ち上げサービス(Twitter)
https://twitter.com/MHI_LS

 世界各地で猛威を振るい、人々の行動を制限している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だが、宇宙開発も例外ではない。
 アリアンスペースは5月10日までギアナ宇宙センターでの作業を停止中で、インターステラテクノロジズは、大樹町の要請を受諾しMOMO5号機の打上げを延期した。
 種子島では、来る2020年5月21日を目指して、H-IIB 9号機/こうのとり9号機の発射準備作業が進んでいる。H-IIB、「こうのとり」ともにこれが最後の打上げであり、本来であれば多くの見学者で賑わうことだろう。

 しかし、南種子町・JAXA・三菱重工は、一般/報道に向け見学を自粛し、ネット中継で観覧するよう要請を出している。
中継サイト(youtube)

 どのくらいかというと、報道も島での取材ができないレベルだ。具体的にいえば、打ち上げ時のプレスセンター開設はなく、記者会見は全てオンラインになった。厳戒態勢と言っていい。

 最大の理由は、種子島の医療許容量が少ないためだ。万一島内で新型コロナウイルス感染症のクラスタ(集団)が発生すると、病院の受け入れ能力が足りなくなる。
 島の救急事情を見ておこう。救急搬送に対応する病院は 2ヶ所 。南種子町の公立種子島病院と西之表市の種子島医療センターだ。南北約50km、東西12kmの範囲でこれしかない。都会の感覚で「ちょっと病院」というわけにはいかない。
 ドクターヘリを運用している病院は、鹿児島の医療計画を見ると一つしかないし、悪天候の場合は飛んでこられない。そんな時は船で本土の病院に運ぶしかなくなる。
 ヘリだと40分、高速船だと約3時間。
 これが種子島という離島の医療事情である。

 南種子町は町HPで、これまで開放してきた町管理の4ヶ所の見学場
・長谷展望公園
・前之峯陸上競技場
・宇宙ヶ丘公園
・恵美之江展望公園
を全て閉鎖するとともに、見回りを強化すると告知している。
(参考:http://www.town.minamitane.kagoshima.jp/sightseeing/rocketkengaku.html
 更に、「種子島に来訪する旅行者及び帰省者等に対するお願い」として、町長名義で「全ての方の健康と命を守るため」のメッセージを発信している。以下、そのまま掲載する。

1.種子島への旅行等につきましては、極力、自粛又は延期をお願いいたします。

2.種子島出身者の方、又は縁故者で感染が発生している地域に在住している方の帰省につきましても、自粛又は延期をお願いいたします。

新型コロナウイルス感染症が終息したあとは、どうかまた種子島にお越しください。一日も早い終息を心より願っております。

 「誰も来るな」ということである。

 もちろん、打上げを執行する三菱重工とJAXAは人員を送り込む必要がある。JAXAページに、島内に配布されたチラシが載っているので画像で示す。

  島に入る前14日間の健康調査に加え、島に入った後14日の外出自粛を実行するなど、 非常に厳重な警戒だ。

 当然ながら、宇宙センター内の展示施設「宇宙科学技術館」は閉鎖中で、施設案内バスツアーも行われていない。

 JAXAは、開所当時のトラブルで2年半打上げができなかったことから学び、地元との信頼関係を非常に大切にしている。島としてもまた、当初のトラブルを解決した後は、大事な地場産業として宇宙開発と打ち上げ見学観光客を歓迎する雰囲気がある。これは開所以来50年にわたって、ことあるごとに地元と国とが協議を重ねて築いた信頼の上に成り立っている。

 警備・警戒に出る漁業関係者、宿泊施設、輸送機関、物品調達、食事、水道光熱……地元に依拠する要素は大きい。これが一斉にそっぽを向いたら、打上げを支えるインフラが断たれてしまう。
 観光客も打ち上げ関係者も、「宇宙の人」と括られて、心情的な排除の対象になってしまうことも十分考えられる。

 信頼を築くのは難しいが、壊れるのは一瞬だ。その一瞬は今ではないだろう。

 今回の打上げはネットで生中継される。
中継サイト(youtube)
 今回はここで見守りながら、再び現地訪問ができるその日に備えて見学プランを練るとしようではないか。

 STAY HOME。現地に行くのは心だけ、決して体を運ばぬように。

(記事:金木利憲)