H-IIB F8 移動発射台火災についての報告

 2019年9月23日、H-IIB F8/こうのとり8号機(HTV-8)Y-1ブリーフィングが、種子島宇宙センターを主会場とし て行われた。
 東京とびもの学会は、丸の内の三菱重工東京本社内サテライト会場で取材を行った。
 通常のY-1ブリーフィングであれば、詳細な打ち上げ日時と根拠、機体の特徴などを説明するだけだが、今回は、9月11日の燃料充填時に発生したH-IIB用移動発射台(ML3)の火災についての原因と対策の報告が行われ、質疑応答もここに集中した。
 文章にすると複雑なため、箇条書きでまとめていく。

火災発生箇所
移動発射台 断熱材施工部

火災の概要(24時間表記、時系列順)

ブリーフィング配付資料より
  • 2019年9月11日 3時4分54秒 ノズル下端部の監視カメラによって火災発生を確認
  • 54~55秒 非常に明るく燃焼
  • 56秒 炎の勢いは急速に衰える
  • 3時7分 消火活動開始
  • 5時10分 監視カメラの映像で炎が見えないことを確認
  • 6時19分 放水終了
  • 11時頃 液体酸素及び液体酸素の放出等を随時行い、ロケットの安全化処置を完了
  • 18時頃 安全点検実施後、機体を組立棟(VAB)に戻す

直接の原因
1段目のLE-7エンジンに取り付けられた排出口から予冷用の液体酸素が滴下する際、ML3の耐熱材に吹き掛かり続けることで静電気が発生し、内部の断熱材が発火したため。

詳細

  1. 予冷に用いられ液体酸素と気体酸素が混じり合った流体がML3の耐熱材に吹き掛かり続け、耐熱材に静電気が溜まる
  2. 低温に晒された耐熱材が硬化、収縮することでひび割れが発生し、内側に施工された断熱材が露出
  3. 静電気の火花が散る
  4. 高濃度の酸素雰囲気のために断熱材に着火、火災が広がる
ML3に施工された耐熱材・断熱材の重なりと、事象の説明

 断熱材および耐熱材は、H-IIB F2の際に、ML3の構造材である鋼板に液体酸素が掛かり、急速な冷却と加温によってひび割れが生じたため、鋼材保護のために施工したもの。
 同様の施工はH-IIA用の移動発射台(ML1)にも施されたが、ML3より液体酸素排出口より距離があったため、直接掛からず。なお、ノズルからの距離はML1が約600mm、ML3が約200mm。
 施工はH-IIB F3に際して行われたが、F3~F7ではある程度風が吹いていたため液体酸素が散らされ、濃度が薄まっていた。9月11日は風速1m程度で、酸素が散らされにくい状況にあった。
 試験を行った結果、9月11日の状況下でのみ耐熱材表面が強く帯電することが判明。
 発火した断熱材はポリ塩化ビニル素材で、空気雰囲気下では難燃性かつ自己消火性をもつが、高濃度の酸素雰囲気では発火する素材である。耐熱材はシリコーン素材で、酸素濃度にかかわらず発火性は低い。

ブリーフィング配付資料より

 以上のことから、

  • 風が弱く酸素が滞留したこと
  • 液体酸素のみでも気体酸素のみでも帯電しない耐熱材が、液体酸素と気体酸素の混合条件下でのみ強く帯電する性質があったこと
  • 低温下で耐熱材にクラックが入り、高濃度酸素雰囲気で着火する断熱材が露出したこと

という条件が重なって火災が発生した。特に風が弱かったことが、今回の特殊な要因である。

対策

  • 帯電防止のため、耐熱材表面全面にアルミシートを施工し、アースを取った。試験で帯電しないことを確認。
  • 延焼防止のため、断熱材表面全面にアルミシートを施工。試験で燃焼しないことを確認。
  • H-IIA用のML1については、今回の打ち上げ後、慎重に検討して対策を決定する

 火災発生時に警報を鳴らしたり、記者席に屋内退避を促すことはしなかった点について質問をした。JAXAの射場安全管理責任者の藤田氏より回答があり、3kmの保安距離内には人がおらず、かつ記者席は保安距離外にあって充分安全が確保されているため、との説明だった。
 
 火災後、熱(火炎)による影響、浸水(放水)による影響、煙の侵入による影響を調査し、必要な処置を行った。現在は打ち上げに支障ない状態であることを確認済み。

 ひとまず今回の火災の原因は特定され、対策が施された。H-IIBは9号機で終了が決まっているので、最後まで無事に打ち上げられることを願ってやまない。

 なお、H-IIB F8打ち上げは、はソユーズ打上げ軌道との兼ね合いで2019年9月25日 1時5分5秒に設定された。

(記事:金木利憲)