はやぶさ2、人工クレータ生成実験へ(3:機体の動き編)

SCI運用を解説する本連載も最終回となった。今回はSCI運用時の「はやぶさ2」の動きについて述べていく。
SCI運用予定日:4月4日~6日
クレータ生成予定日時:4月5日11時36分(機上時間)
記事中の時刻は全て機上時間で記述する。それぞれの運用の結果は17分後に地球に届くので、各時刻に+17分すると、地上時刻になる。なぜ17分かというと、電波が届くのにそれだけの時間がかかるからだ。
地球近傍天体とは言え、宇宙はこのように広い。

1.降下

4月4日、リュウグウ高度20kmのホームポジションから降下を開始する。降下開始時刻は、3月18日時点で未定だ。
20~5kmは秒速40cm、5km~500mは秒速10cmで降下する。

2.SCI分離~DCAM分離~待避

高度500mに達した「はやぶさ2」は、10時56分に衝突装置(インパクタ:SCI)を分離する。
分離されたSCIは制御装置を持っておらず、分離時の加速度とリュウグウの重力に引かれ、自由落下する。40分後、落下中にタイマ制御で爆発する。

衝突装置分離後は、爆発時の飛散物から機体を守るため、衝突地点から見てリュウグウの陰に入るよう、速やかに待避する。待避は水平・垂直の2段階である。
まず、水平待避を行う。太陽電池パドルを肩の高さで水平に広げた両腕に、帰還カプセル装着面を腹、イオンエンジン装着面を背中、サンプラホーンがある面を足に例えると、背中の方向に移動する。
充分に離れたところで、進行方向を90°変えて垂直待避に移る。先ほどの例えを用いれば、足先の方向に移動する。
待避中、クレータ生成の様子をほぼ真横から観測できる位置を狙って、分離カメラ(DCAM3)を分離する。DCAM3は落下中のSCIやクレータ生成の様子を撮影し、バッテリが尽きるかリュウグウの陰に入る、または表面に落下するまで「はやぶさ2」に送り続ける。

垂直待避は、クレータ生成地点から見て機体が充分リュウグウの陰の安全地帯に入るまで続けられる。

3.SCI動作~クレータ生成~ホームポジション復帰

11時36分、タイマによって起爆したSCIは、純銅のライナ(衝突体)をリュウグウ表面に撃ち込み、クレータを穿つ。
その際には多くの岩石が巻き上げられるはずで、ある石は脱出速度を超えて飛び去り、ある石は衛星のようにリュウグウを周回し、またあるものは重力に引かれて再びリュウグウ表面に落下する。

この、舞い上がった物質が落ち着くには2週間~3週間かかる見込みで、その間探査機は待避とダスト観測を続け、ホームポジションに復帰するのは約2週間後の予定である。もちろん探査機の安全が第一なので、ダストの落ち着き方次第では後ろ倒しになる可能性もある。

4.クレータ生成後のダスト観測

巻き上げられたダストはさまざまな方法で観測する予定である。DCAM3や光学カメラ(ONC)による直接撮影、LRFを使った距離観測・個数カウントなど、使える観測機器を、使用可能な範囲でフルに使ってデータを収集する。実際の小惑星に衝突体を撃ち込んでその場観測を行うのは世界初であり、科学者にとっては得られた全てのデータが興味あるものとなる。
SCI運用で最も気を遣うのは、探査機の安全とのバランスだという。大きな破片がぶつかれば探査機は簡単に壊れてしまう。そのリスクを出来るだけ小さくし、科学的成果を最大限に引き出すための苦心については、かつて『日本惑星科学会誌』掲載論文に
「SCIがその発射時に生成する自身のデブリや小惑星表面から発生するイジェクタは、母船に対して極めて危険な存在である。それ故、我々はSCI運用のリスクとそれに見合った科学的価値があるかどうかを常に問われてきた。リスクに関しては今後も検討を重ねてはやぶさ2プロジェクトが破綻しないように注意していきたいと思っている」(荒川 政彦、和田 浩二、はやぶさ2SCI/DCAM3チーム「火の鳥「はやぶさ」未来編 その3〜SCI/DCAM3と衝突の科学〜」 日本惑星科学会誌Vol.22, No.3, 2013)
と述べられている。

5.まとめ

ここまで3回にわたってSCI運用の要素について、その目的と実行方法を解説してきた。この運用は「はやぶさ2」がリュウグウで予定する探査のうち、間違いなく最も危険度が高いものであり、更にSCI分離後はやり直しが効かなくなる、一回きりのチャンスである。
限られたチャンスをモノにすべく、「はやぶさ2」がまだ紙上の計画だった頃から慎重に検討を重ね、実運用を想定したリハーサルも行い、またこの記事が掲載される時には、クレータ生成領域の事前探査が進行中である。

・「クレーター探索運用(事前)」(CRA1)について
 http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20190316_CRA1/

クレータ生成後は、露出した内部物質を採取するため、クレータ内、もしくはその近辺にタッチダウンが試みられる。スケジュールが詰まっているため、これが恐らくリュウグウへの最後のタッチダウンになる。
繰り返しになるが、期待の安全が第一なので、クレータの出来方や運用後の地形変化の具合によっては、クレータを作ったのとは全く別の場所にタッチダウンする可能性もある。

2月22日の第一回タッチダウンで採用された「ピンポイントタッチダウン方式」は、本来このSCI運用後のタッチダウンのために考案されたものだった。リュウグウの地形が予想以上に険しかったため、図らずも第一回に採用されたことでリハーサルも万全。
どのような形のクレータができるのであろうか。DCAM3による生成の様子の撮影は成功するのだろうか。
まだまだ未知の小惑星リュウグウに興味は尽きない。

(記事:金木利憲)