2020年12月4日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は『小惑星探査機はやぶさ2』の地球帰還に関する記者会見を開催し、今後のスケジュールの詳細を説明した。
記者会見は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)所長 國中 均(くになか ひとし)、はやぶさ2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 津田 雄一(つだ ゆういち)、同ミッションマネージャ 吉川 真(よしかわ まこと)と、オーストラリアウーメラのサテライト会場から、豪州宇宙庁(ASA) 長官 Megan Clark(メーガン クラーク)、JAXA 宇宙科学研究所 副所長 藤本 正樹(ふじもと まさき)(敬称略)が出席して行われた。
はやぶさ2の運用は順調に行われており、すでに帰還カプセルをオーストラリアウーメラの予定地域へ落とす軌道制御(TCM)を行って完了しており、このあとは帰還カプセルの分離とはやぶさ2本体を地球突入コースから離脱させるTCM-5を残すのみとなっている。
帰還カプセルの分離・大気圏突入(リエントリ)運用は日本時間12月5日10:30から行われる予定で、タイムスケジュールは以下のようになっている。
- 10:30 リエントリ運用開始
- 11:15 カプセルの電源をはやぶさ2供給からカプセル内部の電池へ切替
- 12:59 カプセル分離準備姿勢へ変更
- 14:13 カプセル分離姿勢へ変更
- 14:30 カプセル分離。分離後TCM-5姿勢へ変更
- 15:30 TCM-5 第1回目実施
- 16:00 TCM-5 第2回目実施
- 16:30 TCM-5 第3回目実施
各運用後には確実に実施されたのか確認作業が行われる。カプセルが分離されたことが確認できない場合は再度分離のコマンドを送信し分離が確認できるまで繰り返すとのこと。さらに、最後まで分離が確認できなかった場合はTCM-5は実施せず初号機と同じようにはやぶさ2本体も大気圏に突入させる予定とのこと。
カプセル分離への軌道が確定したことからカプセル分離後の大気圏突入時刻も確定し、大気圏突入は12月6日02:28:27、カプセル火球予想時間は同02:28:49~02:29:25と予想されている。大気圏突入後は風の影響もありカプセルの着地は02:47~02:57の間と想定している。
カプセル着陸後、直ちにヘリコプターでカプセルを捜索する予定で、夜のうちに位置を確認し夜明け後に回収隊が現場へ向かって作業を行い、順調にいけば昼過ぎには回収完了できる見通しである。
会見の最後に質疑応答が行われた。登壇者3名は、はやぶさ2のプロジェクトマネージャーを歴任された方々なので、当学会ではそれぞれの担当時期における感慨と地球帰還を目前にしての心境を質問した。
Q:
それそれの時期にはやぶさ2のプロジェクトマネージャーを務められたと思います。地球帰還にあたり、それぞれがどのようにバトンを受け取りバトンを受け渡し、そして今どのような思いではやぶさ2を見ているのか。
吉川:
はやぶさ2立ち上げ期のミッションリーダーで、途中からプロジェクトマネージャーでした。
15年前の初号機がトラブルを起こしたあと、はやぶさ2に向けた検討をはじめるのですが、なかなかすぐにはプロジェクト化できなかったこともあって15年後にこのような形で迎えることができたことは本当に感慨深いです。
國中:
はやぶさ2の製造フェーズでプロマネをやったのですが、予算認可が2011年で打上げたのが2014年の12月ですから3年半くらいしか工期がなく、かなり厳しいなという印象で、これを引き受けるのは結構きついなというのが当時の印象でした。
しかし、受けざるをえなかったのでプロジェクトマネージャーをやりました。
製造中もたくさんトラブルに見舞われたが、それぞれの困難を開発チーム・企業とタッグを組んでひとつひとつ解決し、ひとつ解決するとまた次が出てきて、それを解決するとまた次の問題がでるという非常に過酷な3年半だったと記憶していますが、ある意味初号機でやった小惑星サンプルリターンという探査がどういうものなのか、それがもたらす効果・成果が各メンバーが共感し共有していたのが大変大きな団結力・結集力を生み出したのだろうと思っている。
初号機の礎があったからこそはやぶさ2は短い工期であっても、たくさんの困難があったとしてもタイムラインを確実にこなし打上げまでたどり着けたと思っている。
JAXAの中には口の悪い人がおりまして『はやぶさ1は宇宙で奇跡を起こしましたが、はやぶさ2は地球で奇跡を起こしましたね』と言われたのを強く記憶に留めております。
津田:
打上げた後、2015年4月からプロジェクトマネージャーを引き継ぎました。それ以前は開発を現場でやってきたので探査機のことは技術的にはよく把握しているということが任された要因かなと思う。
私自身は初号機の打上げ直前に宇宙科学研究所に入り、初号機の運用にずっと携わってきたが、そこで行われている運用が即断即決で、どんどん凄い事が決まっていってトラブルをどんどん対処していく。それでも悪いことは起きるということを現場で経験して、そこでこれは次はどうしなければならないということを
いろいろ吸収させてもらった。それをはやぶさ2のプロジェクトが立ち上がって活かす場が与えられてタイミング的に幸運だったと思う。
開発だけではなく打上げたあとも、初号機で経験したトラブルは全部修正してはやぶさ2では同じことを起こさないという気持ちでやってきたが、その半分は
打上がった後、運用で気をつけなければならないこと、反映させなければならないことが沢山あって、それをしっかりやっていくということがプロジェクトマネージャーとして心がけてきたことです。
おかげさまで、リュウグウに到着してからいい意味で想定以上の成果が得られたと思っています。こういう形で地球帰還まで迎えられたのはチームワークの賜物で、チームを作ってこられたのは本当によかったと思っている。
最後に地球帰還、初号機はあんなに満身創痍な状態に関わらず完璧にこなして非常に精度良くカプセルを着陸させた。我々は初号機を超える探査機を作るとずっと思ってやってきたので、しっかり初号機でやったことははやぶさ2でもきちんとやってはやぶさ2を生き残して、今度は初号機ではできなかった拡張ミッションへと進んでいきたいと思っている。未来へバトンをつなげたいと思っている。
Q:この中継を見守っている、地上で見守っているファンに向けて一言
津田:
ありがたいと思っている。
ありがたい反面いつも緊張を強いられるが、注目していただくのはありがたい。
打上げ前から応援してもらえる探査機はなかなかないので、その中でいい成果を見せてこられたのでほっとしている。
明後日地球帰還するが、カプセルが地球帰還することはなかなか全世界で、人類史上でもそうそうないことなのでそれを目の当たりにしていただいてはやぶさ2がやったことを思い返していただいて、次はこんな宇宙技術ができるぞ、こんな世界が開けるんだぞということに思いを馳せてもらえればと思っている。
帰還まであと2日、無事に戻ってくることを願う。
(文:岡澤知行)