HTV搭載小型回収カプセルの報道公開

2018年11月27日午前、JAXA筑波宇宙センターにおいて、HTV搭載小型回収カプセルの公開が行われた。11月13日に行われたサンプルコンテナ公開と対になるものである。
参考記事:HTV搭載小型回収カプセル試料コンテナの記者公開 (https://tokyo.tobimono.org/archives/546)

1:カプセルの外見、匂いなど

初公開されたのはカプセル本体・フロート・パラシュート。併せてサンプルコンテナが再公開となった。

カプセル本体、メインフロート、通信機器用フロート、パラシュート及びサブフロート
今回初公開となる、回収カプセルの頂点の蓋。「こうのとり」との分離部でもある。ISS内で宇宙飛行士か試料収納容器を回収カプセルに収めた後、最後にこの蓋をネジで取り付けて準備完了となる。
試料コンテナ容器(再公開)

11月11日の6時24分、「こうのとり」7号機(HTV-7)から分離したカプセルは、6時37分に再突入姿勢になり、同42分に揚力誘導を開始、50分にパラシュートを展開して7時4分に南鳥島沖の太平洋に着水した。
カプセルは円錐形の外見で、最大で大人の腕で一抱えほどの直径である(あくまでもサイズの話であり、持ち上げられる重量ではない)。ただし地表への降下中に側面のパネル3枚を外して投棄し、その際にパラシュートを引き出す設計となっているため、公開時は内部の機器が見られる状態であった。
カプセル外側に貼られたMLI(断熱材)の焦げ方が一様ではないことに目が留まるが、これは揚力誘導がうまくいったためにカプセルの再突入時の熱のかかり方が上(空に向く側)と下(地表に向く側)で異なったためである。下の方がより熱がかからないため、MLIが溶け残っている。

カプセル全景。右側(再突入時の上側)はアブレータが露出し黒くなっており、左側(再突入時の下側)には溶け残りのMLIが付着しているのがよくわかる。底面も完全にアブレータが露出しているとのこと。

カプセルからはまだ、かすかに昇華型断熱材(アブレータ)が焦げた匂いがした。
一部の方には電解コンデンサが焦げたときの匂い、昔の家電の裏側の「電気くさい」匂い、を思い浮かべてもらえれば、それでだいたい同じ匂いである。アブレータはフェノール樹脂、コンデンサの中身もフェノールである。
説明に立ったカプセル開発チーム チーム長代理の渡邉泰秀(わたなべ・やすひで)さんは、報道に対し「ぜひ嗅いでみて下さい」と誘いかけ、さらには「アブレータ開発の際に何度も嗅いだ匂い。焦げた匂いでご飯何杯も食べられる」と、開発者としての愛が溢れる発言もあった。
さすがである。

カプセルについて解説する渡邉氏。丁寧かつ分かりやすい解説だった。

2:揚力誘導、飛行データから分かった熱などの状態

この帰還カプセルの特徴として、揚力誘導を行ったことが挙げられる。今回地上に戻した資料はもろいので、なるべく優しく地上に戻してやらなければならない。そのために、単なる弾道再突入(例えば「はやぶさ」帰還カプセルのような)よりもかかるGを和らげる必要があった。その答えが揚力誘導だった。要求値は4Gであったが、実際にかかった加速度は3.5G以下であり、要求を満たした。これは将来の有人飛行に向けての基礎技術ともなる。
ではどのように実現したのであろうか。具体的には以下の3点である。
①:カプセルの形状を工夫し、弾道再突入よりもゆるやかに飛行するように設計する(L/Dは0.2である)
②:重心位置を空力安定の中心からずらす(オフセット)することによってカプセルの姿勢を保つようにする
③:姿勢制御スラスタをふかすことによって更に姿勢安定を図る

揚力誘導時に使用するスラスタ。カプセル全周で8個取り付けられている。4箇所の穴のうち3つはねじ穴で、残り一つから推進剤を吹き出す。
スラスタ取付の様子。この写真内に2つ見える。

さて、カプセル内部を見てみると、パラシュートの取付金具が円の中心を挟んで対称の位置ではなく、若干上側にオフセットされているのがわかる。これもまたカプセルの姿勢を一定に保ったまま海面に降ろす工夫である。

赤丸の中がパラシュート取付金具、青がほぼ円を二分割する線。金具が片側に偏っているのが分かる。

再突入時、最も熱がかかった際のカプセル外面上部の温度は摂氏1700度~2000度、下面が数百度以下だった。カプセル内面は最大100度の想定であったが、半分以下の温度で収まったと考えられる。4.5cmの厚さがあるアブレータは、想定される最悪の飛び方をした場合で2cmが溶ける想定だったが、帰還後に型紙を当てて行った簡易的な測定では、おおむね1cmほどの消耗で済んでいるだろうとのことであった。
アブレータは新規開発品で、「はやぶさ」帰還カプセルに使った従来のものより比重で1/5の軽量化に成功している。製造時に樹脂を発泡させることで、断熱性と軽量化のバランスを取ったということである。無事に試料を地上に帰せたことで、実用に堪える素材であることが実証された。

アブレータ見本。奥側が従来タイプ、手前が新タイプ。手に取ると重さの違いがはっきり分かる。表面の平滑度も違う。新タイプの方がざらついた見た目となる。
カプセルを上面から見下ろす。底部に機器が詰まっているのが分かる。
更にアップ。右上に小さなスイッチが見えるが、これは再突入時の軌道(南下ルート・北上ルート)によって切り替えられる。再突入軌道は「こうのとり」切り離し直前に決まるため、切り替えを行うのはISSに滞在している宇宙飛行士である。

3:パラシュート展開、現在地の通報、着水

大気圏再突入後しばらく揚力誘導を行い、充分に減速し高度が下がったところでパラシュートを展開する。今回は高度14kmでの展開であった。
展開に当たって、まずはカプセル側面の3枚のパネルが分離される。うち1枚のパネルの内側にはパラシュートから伸びる紐が取り付けられていて、分離時にパラシュートを引き出しながらカプセルから離れていく。充分に引き出されたところでパネルは外れるようになっている。パラシュート引き出しに使用したパネルと他2枚の側面パネルは全て投棄され、回収は行わない。

パラシュートは空気をはらんで広がり、海面へ軟着水する。パラシュート頂部にはサブのフロートが取り付けられているが、これは降下中に空気を取り込んで膨らむように設計されている。

手前のオレンジ色の布がパラシュート。画面左端の球がサブフロート、カプセルの右側にある大きい球がメインフロート、その右の黄色く小さな球が通信機器を取り付けたフロートである。

着水したことは着水センサによって検知され、同時にメインフロートに取り付けられたガスボンベから炭酸ガスが供給され、メインフロートが膨らむ。カプセルはメイン・サブ、いずれかが膨らめばそこにぶら下がるようにして海中に沈んでいる。また、シーマーカー(着色剤)によって周辺海面を着色し、視認性向上を行っている。

メインフロート。視認性が高い色で、暗闇に備えて反射材も貼られている。

回収チームとしては、実際にフロートの先にカプセルが付いていることを確認するまで非常に心配だったという。(過去にHYFLEXという実験機で、紐が切れて機体は海没、回収不可能となった事例がある)
また、カプセルは現在地を通報し続ける。通信には衛星電話のイリジウムを使い、通報方法はメールである。通信機はメインフロートと、通信機線用に用意された小型フロートに取り付けられている。

通勤機器用フロート。こちらも視認性が高い色で、反射素材を貼る。
着水センサのアップ。検知器のシールド(内部の白い筒状パーツ)には和紙を使っているとのこと。

4:サンプルコンテナの断熱性

次に、カプセル内に収められたサンプルコンテナの保温性についてのことである。
11月6日18時頃に軌道上で断熱保冷容器にサンプルを収納し、11月12日9時半頃に取り出すまで、コンテナ内の温度は4度付近で0.4度の幅で制御することができた。要求は4度±2度だったので、かなり良い結果であった。

会見中「非常に良い状態」という言葉が何度も発せられたのが印象に残っている。説明を聞きながら、とても良い成績であり、それを喜んでいるということが伝わってきた。