2020年11月10日、米国の新型宇宙船「クルードラゴン」での飛行が間近に迫った野口聡一宇宙飛行士の記者会見が行われた。東京とびもの学会はこの会見を取材し、質疑応答を行った。
野口飛行士の宇宙飛行は今回で3回目となる。搭乗するのは米国スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられる、同社の宇宙船「クルードラゴン」の運用初号機だ。この宇宙船に乗る日本人は初めてだ。打ち上げ後は国際宇宙ステーション(ISS)に行き、およそ半年間滞在する予定となっている。
運用初号機の機体は「レジリエンス」(活力の回復)と名付けられた。これは、新型コロナウイルス感染症で苦しむ世界に再び活力を得るための力になりたいという思いから、4人の搭乗員で話し合って決めたのだという。
この思いは、上の図でクルー上部に描かれる「ミッションパッチ」にも及んでいる。多くのパッチには搭乗する宇宙飛行士の名前が入るのだが、今回はあえてしなかったとのこと。「誰もが自分の名前を入れて、みんなのミッションと思えるように」と野口飛行士は語った。(ミッションパッチの図柄と意匠の解説は下を参照)
野口飛行士は、3回の飛行で全て違う宇宙船に乗ることになる。スペースシャトル・ソユーズ・クルードラゴンの3機種に乗るのは史上初のことだ。加えて、地球帰還時に滑走路(スペースシャトル)、地面(ソユーズ)、水面(クルードラゴン)を経験するのも人類初である。
3機種搭乗という点に注目しても、ジェミニ・アポロ・スペースシャトルに搭乗したジョン・ヤング宇宙飛行士以来2人目となる。
だが、そのことについては「やがて多くの人が経験することになります。星出宇宙飛行士も続くことになるでしょう」とあくまでも特別なことではないと強調するかのような話しぶりだった。
東京とびもの学会からは、3機種の宇宙船の印象と、3種の宇宙服の着心地・印象について質問した。
質問:宇宙船について、スペースシャトル・ソユーズと比べてクルードラゴンはどんな印象か。
答え:圧倒的に設計が新しい。私たちの世代、私が宇宙飛行士になってからの設計。見た目はシック・モダンで近代的。操作パネルをメインとし、ハードウェアスイッチをなるべく排除しようという設計思想で、操作系はシンプルかつエレガント。
パネルデザインだけでなく、運用手順書や運用自体もシンプルにしていこうとしている。これは宇宙ベンチャーに共通しているのではないか。
質問:シャトルの飛行服、ソユーズのソーコル(ソコル)宇宙服、クルードラゴンのスペーススーツ、それぞれの着心地はどう違うか。
答え:シャトルのオレンジスーツは、見た目は印象的。だが、2度の悲しい事故を経て後付けの改修がされ、ごてごて、ゴチャゴチャしている。
ソーコルとスペーススーツは、人間の体を守るための最低限に特化している。スペーススーツはソーコル宇宙服に比べて軽く、着脱も圧倒的に樂。タッチパネルが使える手袋など、新しい要素も多い。また、宇宙船とのコネクションケール類も1箇所にまとめられすっきりしている。着やすい宇宙服だ。
打ち上げは、2020年11月15日(日)9時49分(日本時間)に予定されている。詳しくはJAXAの特設サイトを参照して欲しい。特に「プレスキット」には多くの情報がまとめられているので、興味のある方はぜひ読んで欲しい。
https://astro-mission.jaxa.jp/noguchi/
打ち上げ、ISS長期滞在、帰還と長きにわたるミッションだが、成功を祈っている。
(記事:金木利憲)