毎年8月、お盆の頃に行われる「能代宇宙イベント」という催しがあります。
秋田県能代市の能代宇宙広場や落合浜海水浴場跡地などを会場にして、全国の大学生団体による陸海からのハイブリッドロケット打ち上げと、模擬人工衛星である缶サット投下実験を行う缶サット競技(※)、高校生たちによる「ロケット甲子園」、中学生による「中学生モデルロケット秋田県大会」など、幅広い生徒・学生によるロケット打ち上げが行われています。
(※缶と付いていますが、実際にジュースの空き缶サイズというわけではありません。このような競技に使う小型の模擬人工衛星を指す用語と考えて下さい)
2022年で18回目を迎えるイベントですので、初期から参加している老舗団体もあれば、新しく参入してくる団体もあります。その中で、2021年4月に活動を始め、今年始めて打ち上げに挑む、大分県のインカレサークル「HYON」(ハイオン)に話を聞いてきました。
インカレロケットサークル「HYON」
HYONは「HYbrid rocket team by Oita university and Nippon bunri university」の略称で、大分大学と日本文理大学のメンバーからなっています。設計が大分大学、燃焼が日本文理大という役割分担で小型ハイブリッドロケットの開発を行っています。
HYONは、大分大学側からの働きかけで始まりました。ロケットをやりたいけれど、学内に団体はなく宇宙工学系の研究室もない。そんな中で、航空宇宙工学科を持つ日本文理大学にコンタクトを取り、2020年11月の文化祭に訪問したところから交流が始まりました。両者でミーティングを重ね、2021年4月に両学のメンバーでHYONを立ち上げることになりました。そこからロケットの計画を立て、およそ1年弱をかけて初のロケット「Sagittarius」(サジタリウス:射手座の意)を開発。今夏の打ち上げに挑むまでになりました。
「射手座」の名を冠する初のロケット
2022年度に打ち上げを行う機体は「Sagittarius」(サジタリウス:射手座の意)と名付けられ、全長1,341mm、直径102mm(安定翼を除く)、打ち上げ時の重量4,645gという大きさです。垂直に立てると成人男性の肩ぐらいの高さ、直径は腕よりやや太い、といったところです。ボディにCFRPを用い、力が掛かるなどして剛性が必要な部分はアルミ合金等の金属素材です。
ボディは大分県の地元企業、江藤製作所の協力を得ています。また、ロケット実況などを中心に活動するバーチャルYoutuberの「宇推くりあ」さんとのコラボも予定されています。
ボディや搭載機器は自作ですが、エンジンは市販のものを使います。カナダの自作ロケット用ハイブリッド燃料メーカーであるHyperTEK社製の「I260 440cc」タイプを用い、到達高度は300m弱を予想しています。
関門もあったといいます。能代宇宙イベントだと航空法に従ってNOTAM(ノータム、航空上の安全に関わる情報、予告)を出さなければならず、時間帯と高さに制限があります。とりわけ高さ制限は航空機への影響などから気にしなければならない部分です。
ロケットの機体は軽くてより高く・遠くに飛ぶものが高性能ですが、なんと軽く作りすぎて制限以上に飛んでしまうことが発覚し、急遽重りを乗せて調整することになりました。
また、ただ作れば打ち上げができるわけではなく、設計は妥当か、安全対策はどのように行うか、などの書面審査があり、合格しないと打ち上げはできません。審査に必要な項目には、燃焼試験などの実物試験を伴うものもあります。初めての開発でこうしたノウハウも蓄積がないことから審査書は難航したものの、他団体の助力や能代宇宙イベント運営の協力の元、なんとか提出できたといいます。
こうして作り上げた機体は、8月13日(土)に打ち上げ予定です。設計通りの飛行をさせるべく、懸命な準備が進められています。
(記事:東京とびもの学会取材班)