大樹航空宇宙実験場 2019年度実験計画説明会

6月5日、JAXA大樹航空宇宙実験場の今年度実験計画の記者向け説明会が行われた。実験場は北海道大樹町の大樹多目的航空公園に置かれている。

大樹航空宇宙実験場では、大気球による実験と、航空機等による実験が行われている。今年度は大気球を3実験、航空系を5実験実施する。

大気球による実験:実験期間5月27日~9月7日

大気球放球の様子 (C)JAXA

当初は理学3実験、工学4実験を行う予定だったが、ヘリウムガス供給不足のため減数となり、理学2実験(大気球)、工学1実験(小型ゴム気球)となった。
実験期間確保のため、従来一次・二次に分けていた実験をひとつにまとめた。そのため本年度は「第一次気球実験」のみで第二次がないという、変則的な状況になっている。

理学実験1(B19-02)
理学観測:成層圏における微生物捕獲実験
「成層圏に微生物が存在するか」という議論に完全決着を付けるため、新規開発の降下式インパクター型試料採集装置を用いて気球からパラシュート降下中に試料を採取する。得られた試料は地上で分析を行う。

理学実験2(B19-04)
理学観測:マルチクロックトレーサによる大気年代の高精度化
大気年代を高精度に決定するため、炭素13、酸素/窒素比、ハロカーボン類の3つを指標にした調査を行うための大気を採取する。

工学実験(BS19-02)
極薄ペロブスカイト太陽電池の気球飛翔
塗布により簡易・低コストに製造可能で高効率化も実現可能な次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の実用化のため、気球に塗布した太陽電池での動作試験を行う。

利用可能なヘリウムの量が大気球1回分しかないため、理学実験1・2は片方のみ実施となる。ともに大気球委員会で「優先度1」(最高に高い)と評価された内容である。
実験1の期間が6月末~7月中旬に設定され、実験2はそれ以降に設定されている。実験1の期間中に条件を満たすことがあればそこで放球し、実験2は今年度行わないことになる。実験1の条件を満たさないまま期限が切れると、実験2の待機に移行する。
小型気球実験は、ヘリウムから水素にガスを変更して実施することとなった。
会見中「物がなくて買えないのか、高くて買えないのか」という質問に対して「物がなくて買えない」との回答があった。世界的なヘリウム不足が響いた格好だ。

航空機等の実験

実験用ヘリコプタ(BK117C-2型):撮影地は調布飛行場  (C)JAXA

航空機等実験1:救難ヘリコプタ用状況認識支援技術(SAVERH)センサ・表示システム飛行実験
ヘリを使った救援や捜索を、夜間や悪天候時にも安全に実施できるようにするための技術開発を行う

航空機等実験2:障害物検知の飛行実験
ホバリング~低速飛行時に、既に分かっている地形や障害物を自動回避する技術を確立し、近年多発する衝突事故への対策を行う。

航空機等実験3:高高度無人機の自動操縦システム開発
NEDOからスカパーJSATに委託している「衛星通信を利用するドローンの運行管理システム」の実験の一部の再委託を受け、実施する。東海大学と連携し、2018年度に引き続き実験を進める。

航空機等実験4:月探査機SLIM搭載着陸レーダEM性能確認試験
2022年度打ち上げ予定のSLIMの月面着陸の際用いられる着陸レーダの機能・性能・健全性等を確認する。
実験場内の滑走路もしくはその周辺で、着陸レーダのエンジニアリングモデル(EM)を地上高20~30mにクレーンでつり下げ、各種試験を行う。(2019年9月16~20日予定)

航空機等実験5: 宇宙との光通信実現のための通信技術と航空機に対する安全確保技術の実証実験
衛星との光通信実験を以降に予定し、そのためにレーザ光を使った宇宙機の軌道測定技術と、 レーザ光照射時に航空機が接近してきた場合に安全確保をする(航空保安)技術の実証実験を行う。

実験5については 、衛星との光通信技術については「きらり」(OICETS)で実証しており、航空保安技術も他の機関でもやっていて実証できているのでは、という疑問があるが、以下の通り回答を得た。

「きらり」(OICETS)では基礎技術を800nm帯で確立したが、今回は国際相互運用に向けた、新しい波長帯1.5um帯を用いる、新規技術を含めた実運用化の取組として技術確立を目指している。
レーザ照射時の航空保安技術については、レーザーレンジング(SLR)の技術として、欧米で確立されているが、我々は、国産化を含めた上記新規技術の確立を目的としている。 航空保安に関して、海外の先行例で行っているレーダもしくはADS-Bの使用と比較して、今後、レーザ送信方向の大気による揺らぎまで考慮した、正確な保安システムを目指す。

ロケット打ち上げや人工衛星のニュースに比べて、気球や航空は表だって扱われることは少ないが、例えばペロブスカイト型太陽電池の実証など、確立されれば非常に応用範囲の広い実験や、SLIMの着陸レーダ試験のような宇宙機の要素試験も行われている。
大気球の放球は前日まで有無がわからないため見学難易度が高いが、明け方の空に悠然と飛び立っていく様は美しいと聞く。いつかこの目で見たいものだ。
なお、放球を行うかどうかについては、大樹航空宇宙実験場に電話で直接問い合わせるのが確実だとのことだった。

(記事:金木利憲)