H3ロケット6号機(30形態試験機)及び小型副衛星の機体公開(後編)

H3ロケット6号機(30形態試験機)(以下、H3ロケットF6)公開の翌日、2026年5月25日に宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は鹿児島県の種子島宇宙センターでH3ロケットF6に搭載されるペイロードとフェアリングを公開しました。

前日のH3ロケットF6機体公開の様子は前編をご覧ください。

https://tokyo.tobimono.org/archives/14620

フェアリング

左が今回取材したH3ロケットF6のフェアリング、右がH3ロケット試験機2号機のフェアリングです。H3ロケットF6のフェアリングには、今までのH3ロケットのフェアリングにはあった黒い矢印が無くなっていました。この変化にはH3ロケット8号機(以下、H3ロケットF8)の打上げ失敗が関わっています。

H3ロケットF8はフェアリング分離時にPSS(衛星搭載アダプタ)の座屈が起こり第2段液体水素タンクの加圧配管が損傷したことで衛星が破壊されると共に第2段エンジンも推力が低下、第2段エンジン2回目の燃焼も予定通り行うことができず、打上げは失敗しました。調査の結果、PSSの座屈は製造後の検査で見逃された表面部分と内部のアルミハニカムコアとの剥離が、フェアリング分離時の衝撃で広がったことで発生したことが明らかになりました。また高温によりスプライスと呼ばれる接着部分の強度が低下することも確認されました。対策として、H3ロケットF6のPSSは改めて検査が行われ、剥離が確認された箇所は補修されました。

スプライスを用いた接着はPSSだけではなくフェアリングにも用いられていますが、フェアリングは補修する必要はないと判断されました。しかし高温によるスプライスの接着強度低下を踏まえ、飛行中の空力加熱に対する余裕を確保するためスプライス部に追加の断熱材を貼ることとなり、断熱材の貼り残しを作ることで表現された黒い矢印は無くなってしまいました。製造済のフェアリングは全てこの対策が施されていますが、今後製造するフェアリングも同様の措置を施すか、設計改良等で断熱材の貼り残しを作っても問題ない仕様にするかについては検討が進められています。
なお、補修されたH3ロケットF6のPSSは公開されませんでした。

VEP-5と超小型衛星アダプタ

VEP-5と超小型衛星アダプタ

H3ロケットF6は30形態としての初飛行で飛行実証を行うことから、性能確認用ペイロード(VEP-5)が搭載されます。VEP-5は薄い円筒形のアルミの塊が2枚重なった形状で、重量は約1600kg。衛星の質量を模擬するだけのものです。H3ロケット試験機2号機に搭載されたVEP-4では分離試験が行われましたが、VEP-5は分離されることはありません。
VEP-5の中央には穴が見えますが、これは前述したPSSの補修により増えた重量を相殺するため、VEP-5の重量が減らされことにより開けられたものです。

VEP-5の下にある黄緑色の円筒形のものは超小型衛星搭載アダプタです。超小型衛星搭載アダプタは4つの衛星搭載ポートを持ち、1ポート当たり最大100kg、高さ800mm、縦・横600mm程度の衛星や、さらに小型の衛星搭載ポートを搭載することができます。

H3ロケットF6のペイロード枠組み

H3ロケットF6のペイロードは「革新的衛星技術実証3号機」と「Space BD事業」の2つの枠組みに分けられます。
革新的衛星技術実証3号機は、革新的衛星技術実証プログラムという国内の民間企業や大学・研究機関の技術とアイディアを実際に宇宙で実証することで、日本の宇宙技術の発展と宇宙産業の国際競争力を高めることを目的としたプログラムの3号機です。
革新的衛星技術実証3号機は9機の衛星から構成され、うち2機がH3ロケットF6で打上げられます。

ペイロードのもう一つの枠組み「Space BD事業」は、Space BD株式会社(以下、Space BD)が調達した相乗り打上げ枠を3つの機関の4つのペイロードに提供するものです。相乗り打上サービスは2019年12月にSpace BDとJAXAが締結した基本協定に基づいて提供されるもので、日本の基幹ロケットの相乗り打上サービスに民間企業が関わるは初めてです。

H3ロケットF6に搭載する小型衛星 ©JAXA

革新的衛星技術実証3号機

陸海域分光ビジネス実証衛星「うみつばめ」 PETREL

陸海域分光ビジネス実証衛星「うみつばめ」 PETREL

革新的衛星技術実証3号機の1機、陸海域分光ビジネス実証衛星「うみつばめ」 PETRELは東京科学大学を中心に開発されました。大きさは約600mm×600mm×650mmで、質量は約65kgです。
地球を回る人工衛星にも太陽の光が当たる昼と、地球の影に入り太陽の光が当たらない夜がありますが、「うみつばめ」は昼は地球観測カメラによる分光撮像観測、夜は紫外線天体望遠鏡で爆発天体を捜索します。左写真の灰色の六角形部分が紫外線天体望遠鏡で、その右下から縦に3つ並んだ灰色の丸部分が地球観測カメラです。地球観測カメラの主な撮影対象は愛称の通り海、特に沿岸域で、プランクトンや赤潮の状況、東南アジアなど南方の海でバイオマス(化石燃料を除く生物由来の有機性資源)を蓄えた海底の植物などの観測を行います。

宇宙テザー利用技術実験衛星STARS-X「しらいと」

革新的衛星技術実証3号機のもう1機は、宇宙テザー利用技術実験衛星STARS-X「しらいと」です。大きさは約560mm×580mm×600mmで質量は約65kg、静岡大学で開発されました。宇宙テザー技術を用いたデブリ捕獲の技術実証を行います。衛星が上下に分離しテザーを1km伸展、クライマーというロボットをテザー伝いに移動させる実験と、衛星から放出されるダミーのデブリをテザーの先端につけられた網で捕獲する実験を行います。これらの実験より、将来は宇宙空間でテザーを自由自在にコントロールし活用できることを目指します。

宇宙テザー利用技術実験衛星STARS-X「しらいと」

Space BD事業

Sapce BDの技術的サポート

Space BDは相乗り打上げ枠の提供に留まらず、相乗り衛星への技術的なサポートも行っています。一つのポートに複数の衛星を搭載するために、複数の衛星放出機構を支えるインタフェースプレートを株式会社中央エンジニアリングと、電気的に制御するシーケンサーをオランダのISISpace社とそれぞれ協力して開発しています。
また、Space BDは革新的衛星技術実証3号機の2衛星にも一部支援を行っていることから、H3ロケットF6で打上げられるすべての衛星に関与していることになります。

宇宙可視光背景放射観測衛星VERTECS

宇宙可視光背景放射観測衛星VERTECSは、大きさが約100mm×226mm×340mmで質量は約8.4kg、九州工業大学を代表機関として開発されました。
宇宙の誕生初期から現在までに放出された光の全てが宇宙背景放射に織り込まれているので、宇宙背景放射を観測することで宇宙の歴史を紐解くことができると考えられています。過去の観測により近赤外線の宇宙背景放射は、既知の銀河の明るさを積算したものより数倍明るいことが分かりました。この明るさの差は、未知の天体からの謎の光があることを示唆しています。宇宙可視光背景放射観測衛星VERTECSは、宇宙背景放射の可視光の波長を観測することで謎の光の解明に挑みます。

宇宙可視光背景放射観測衛星VERTECS
HORN-L/HORN-R

株式会社BULLのHORN-L/HORN-Rは、大きさが約100mm×226mm×366mmで質量は約10.6kg(いずれも1基当たりの大きさと質量)。役目を終えた人工衛星を迅速に軌道離脱させる装置 HORN(Hurtling ORbit Normalizer)の軌道実証を行います。HORNは長さが10mある2本のブームを伸展させることにより膜面を展開し、大気抵抗を増大させて衛星軌道から離脱させます。外観図では膜面は二等辺三角形に描かれていますが、想定より大気抵抗が大きく早期に軌道離脱してしまうことが判明したため、二等辺三角形の長辺部分の面積を減らしたブーメラン型に改められています。HORN-LとHORN-Rはサイズの異なる膜を異なる収容方法で搭載し、膜の展開動作・軌道効果性能に必要な要素技術を実証します。

HORN-L/HORN-R
BRO-22

Unseenlabs社 のBRO-22は大きさが8Uサイズ(約100mm×200mm×400mm)で質量は約12kg。海上船舶のための無線探知を行うコンステレーション衛星の1機です。H3ロケットで打上げる初の海外衛星となります。
機体の外見に機密情報が含まれるため、機体の公開はされませんでした。

公開の最後に、説明に当たった各衛星の担当者がフェアリングの前に集合。フェアリングには革新的衛星技術実証3号機とSpace BD事業のロゴマークが貼られています。
いずれの衛星も今後の成果を楽しみに待ちたいと思います。

文:樋口厚志
写真:金木利憲、樋口厚志